近年、企業の業務を大きく変えているのが、IT技術の台頭です。しかし、便利な反面、新しいシステムをうまく運用できていない企業が多いのも事実です。業務をデジタル化しても、うまく運用できず、効率化できないのでは意味がありません。IT技術によるシステム改革では、「業務設計」による業務の最適化と適切なシステム運用が重要となります。そこで今回は、業務デジタル化をおこなう前に、実現するべき「業務設計」についてご紹介します。
業務設計とはなにか
まずは「業務設計」の基本的な部分から解説します。
業務設計とは「業務を細分化し、最適なプロセスの構築をおこなう作業」
業務設計とは、業務におけるプロセスを細分化し、順番を決めて最適化するための作業です。具体的には、「割り当てられたリソースを利用して、エラーやイレギュラーを想定しつつ、最短で業務を実行するためのフローを設計する作業」のことです。
参考:業務設計の前に必要な「業務整理」の進め方とは
業務設計によって最適化された業務フローは以下のようになります。
- フロー内の各プロセスでインプットとアウトプットが整理され…
- 前後プロセスのつなぎがスムーズになる
- ゴールまでを最短で作業できる
- エラーやイレギュラーに強い
業務設計をおこなうことで作業効率が上がり、トラブルが発生しても柔軟な対応ができるようになります。
しかし、業務設計には正解がありません。そのため、作成したフローが確実に最短であるのか、エラーやイレギュラーにきちんと対応できるかを見極めるには、ある程度の経験やスキルが必要となるのです。
業務設計の「インプット」「アウトプット」とは
業務設計を成功させるには、はじめに「インプット」と「アウトプット」を意識してプロセスを作成することが重要です。これは建築物でいうところの土台部分に当たるもので、適切におこなわないとゴールがぶれたり、最短でのフロー作成が難しくなったりします。
まずインプットは、業務のスタート地点といえます。ここでは、成果を上げるために人・モノ・お金・情報などのリソースが、文字通り「インプット」されます。そして、割り当てられたリソースから、ゴールである「アウトプット」で成果物に変わるわけです。
たとえば、上記の流れをPC組立工場に当てはめると、インプットでは従業員や工場機器などのリソースが配置されます。そして作業の結果、アウトプットでPCという成果物ができあがるわけです。上記は業務フロー全体で見た上での「インプット」と「アウトプット」ですが、実際の業務では業務フロー内のプロセス単位でも「インプット」と「アウトプット」が発生します。各プロセスでは「インプット」を元に処理をおこない、次のプロセスの「インプット」となる「アウトプット」を出します。
このように、どのような業務も一連の流れは「インプット」→「プロセス(処理)」→「アウトプット」となっています。そのため、この流れを頭文字から「IPO(Input,Process,Output)」と呼ぶこともあります。
業務設計において重要なのは「アウトプット」の定義
先述したように、IPOがPCの組み立てであればわかりやすいのですが、実際の業務は複雑な場合が多くあります。たとえば商品開発なら、アウトプットは「売れる商品の開発」「お客さまにとって価値のあるものの開発」「多機能を詰め込んだ商品の開発」などです。 また、宿泊施設といったサービス業であれば、「お客さまが満足できるサービス」「リピートしてもらうためのサービス」などとなります。このように、アウトプットは場合によって変化したり、複数の成果を目指したりすることがあるのです。
そして、アウトプットによってインプットが変わり、またその過程であるプロセスも変化します。もしアウトプットが曖昧な場合や、洗い出しがおこなわれていない場合は、作業の途中で変更が発生する可能性もあります。そうなっては、最短でのフローではなくなり、組み立てたプロセスも意味がなくなるため注意が必要です。
業務設計の重要性
そもそも、業務設計はなぜ重要なのでしょうか?前述のように、業務設計は「業務を細分化し、最適なプロセスの構築をおこなう作業」です。VUCA時代と呼ばれる今、競合他社との勝負に勝ち抜くためには、少しでも多くのムリ・ムダ・ムラをなくし生産性の高い業務に取り組む必要があります。非効率な業務プロセスが残っていること自体、それだけで他社に負ける要因にすらなるため、業務設計を意識した業務フローを実現することは、これまで以上にその重要性が増すと言えます。
参考:VUCA時代とは業務設計で実現するべきこと
ここからは、業務設計で実現するべきポイントについてお伝えします。
- 属人化した業務プロセスの発見・可視化・改善
- エラー発生防止とイレギュラー対策の強化
属人化した業務プロセスの発見・可視化・改善
「属人化」とは、一部の従業員だけしか勝手が分からない業務を指します。属人化した業務がある場合、作業が特定の担当者任せになっているため、ツギハギだらけのフローとなり効率の悪化が懸念されます。それどころか、担当者が不在になった途端に作業が進まなくなる恐れもあります。さらには、担当者が退職した場合、引き継ぎが難しく、作業自体の根本的な見直しが発生することも考えられます。このような属人化した業務を発見し、業務フローを可視化、全体フローのインプットとアウトプットを意識した上で改善をおこなうことが業務設計には必要です。業務設計をおこない、業務フロー図やマニュアルを作成することも大切ですが、形骸化しないような仕組みを意識することが重要となります。
エラー発生防止とイレギュラー対策の強化
業務プロセスが最適化されていない場合、各プロセスの連携時に関係者での認識齟齬が発生しやすく、エラーが発生しやすい状態になりがちです。また業務プロセスの構築を場当たり的におこなっていた場合、イレギュラー発生時に問題となることが多くあります。たとえば納期のある業務で、イレギュラーな業務パターンを想定せずプロセスを組んだとしましょう。この場合、手戻りなどが発生すると、進捗に狂いが生じます。しかし、納期をずらすわけにもいかないため、従業員が残業を強いられるなどしわ寄せが出てしまうのです。
適切な業務設計をおこなうには、こうした業務フロー内でのエラーやイレギュラーパターンを想定してプロセスを組まなければいけません。また、このような問題を想定しておけば、納期を設定する際にも役立ちます。逆にいえば、業務設計が適切に組まれていた場合、業務フロー内でのエラーの発生防止やイレギュラー対策の強化ができるのです。
設計方法・設計の流れ
ここでは、業務設計の手順や方法について解説します。
①現場へのヒアリング・現状分析
業務設計で最初におこなうことは、現行業務の問題点の抽出です。まずは、実際に業務をおこなっている現場に出向き、各プロセスの「インプット」や「アウトプット」、作業内容や手順を確認します。
ヒアリングの実施方法は、「現場視察」「担当者からのヒアリング」「従業員へのアンケート」など複数の方法があります。状況に応じた実施方法を考え、場合によっては複数の方法で実施するとよいでしょう。このとき重要なのが、細かい部分まで問題を洗い出すことです。ヒアリングで抜き出す内容の粒度が荒くては、改善に役立てられません。
ヒアリングを実施することで、現場におけるムリ・ムダ・ムラを発見し、問題点を把握できます。これにより、穴のない業務設計をおこなうと同時に、構築した設計への従業員のスムーズな順応が見込めるわけです。
②改善案の作成
現場でのヒアリングをおこなうと、課題点が浮上します。この課題から対策を立てて、業務設計を構築していきます。改善策の立案では、見つかった問題点に優先順位を付けて、順位の高いほうから解決策を立てます。こうすることで、大きな問題となっている部分を優先的に解決していくのです。
通常、業務設計ではスモールスタートが理想的といわれています。すべての問題の解決や、社内全体への改善適用は現実的ではなく、計画が頓挫する可能性があるからです。順序よく改善策を講じていくことで、最終的により大きな枠組みでの改善へとつながります。
③業務設計の計画
改善策を講じたら、業務設計のための計画を立てていきます。具体的には、「どのような手順で」「どのような期間で」「どのような場所から」といったことを決定します。
このとき、先述したように小規模から計画を立案していきましょう。突発的に大規模な構築をしても、イレギュラーの発生によって上手くいかないことがあるからです。 イレギュラー対策として、複数のシナリオの作成やイレギュラーを最大限に想定しておきましょう。こうすることで、万一トラブルが発生しても、別のシナリオに移行することが可能となります。
④計画を実行・分析する
業務設計を構築したら、実行に移します。実際の導入では、計画で実施した内容を細分化して、細かく評価・改善することが重要です。その際、重要業績評価指標である「KPI」や重要目標達成指標の「KGI」を用いて、達成度合いを測定するとよいでしょう。
もし、不測の問題により期待するほどの効果が得られなかった場合は、現場責任者とともに問題点を抽出して、改善策を打ち立てましょう。この繰り返しによって、業務設計と成功に導くわけです。このとき、成功した要因を分析して、のちの業務設計のノウハウとして活用します。
業務設計の難易度
業務設計をおこなうことで、業務のプロセスがフレームワーク化し、効率的な作業が可能です。さらに、業務が最適化されることによって属人化を防ぎ、システムの正しい運用ができます。
複数のシステムや作業によって、作業が煩雑になっている企業では、業務設計により企業全体の業務を見直す必要があるでしょう。企業の規模が大きくなると、一つの業務において関連作業や関連部署が増えることで、作業のやり取りや紙媒体での作業がボトルネックとなり、スムーズなプロセス連携ができない場合が多く、業務設計の難易度が上がるので注意が必要です。
効果的な業務デジタル化を実現するために、まずは業務設計を正しくおこない、改善サイクルを回す準備をしていきましょう。業務デジタル化を検討している方の参考になれば幸いです。
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この記事の執筆者:冨田(プロモーショングループ)
2013年新卒入社。文系出身でプログラミング未経験者ですが、過去にさまざまな業務・業種・立場の方のお客様の電子化/デジタル化を支援させていただきました。その経験を通じてSmartDB(スマートデービー)があらゆる企業の業務の効率化に貢献できると感じています。ITスキルがない人でも「自分たちの業務も自分たちで電子化/デジタル化できる!」ということを実感してもらえるよう、いろいろ検討中です。“自分たち”で“自分たちの業務”の業務で利用するシステムを改善できる楽しみをお伝えしていきます。